今回は3メガバンクの中で最も安定して着実な成長を遂げていると考えている三井住友フィナンシャルグループについて、筆者が同グループの将来に及ぼす影響が大きいと注目した2024年の3つの動向を取り上げた。
① Oliveの快進撃続く
Oliveは三井住友が2023年3月にリリースした革新的なマスリテール向けの商品である。楽天やPayPayが独自ポイントを武器に個人の決済市場を席巻すると思っていた中、銀行業界から唯一これに真っ向から対抗する形で登場した。
サービスがアナウンスされた直後に申し込んで利用しているが、筆者が考えるOliveの革新性は以下の3点である。
- 銀行業界で初めてポイントを貯めたいと思える商品
- 従来銀行のクレジットカードのポイントは使いづらいイメージがあったが、OliveのVポイントはVISAのクレジットカードが利用できるお店でポイント払いができる上に、月次のクレジット決済でもポイントを利用できるため、非常に使いやすい。
- カード機能と銀行預金機能の連携が心地よい
- 銀行のキャッシュカードとクレジットカードが物理的に一体化されているだけでなく、デビットカードとしても使用できるのは極めて便利である上に、ATM、振込といった銀行機能の利用とクレジット、デビット利用の通知がタイムリーに届くのでセキュリティ面でも安心感がある。
- スマホシフトが進む
- 筆者はOlive導入以前は自宅のPCで残高照会、振込などの銀行サービスを利用していたが、Olive利用後はほぼ100%スマホ経由になった。
- その理由は、アプリが使い安いことが最大の理由であるが、もう1点はスマホのタッチ決済に誘導されたことである。入会時のキャンペーンによりタッチ決済を試したみたところ、カードを出さなくてもスマホだけで決済できる便利さに初めて気づいた。現在は、買い物や食事でタッチ決済ができないと不満を感じるほど、タッチ決済を愛用している。
続いて、2年目に入った2024年のOliveの実績を振り返ってみる。アカウント開設数の目標は5年間で1,200万件であり、年間に換算すると240万件になる。それに対して実績は23年3月からの1年半で330万件であり、目標比では少しビハインドしているものの達成圏内といえる。また、これに伴いカードの会員数の伸びも加速している。
少し気になるのは、楽天やPayPayのようなグループでECサイトを運営する企業と比較して、それを有しない三井住友がOlive事業で収益が上がるのかという点であるが、2024年度上期の投資家説明会資料によると、Olive5年目の27年度には400億円超の業務純益を目指しており、もし実現すれば銀行業界では画期的な成果だと思う。

② インド市場攻略は成功するか
三井住友は2024年3月にインドでノンバンクを営む子会社、SMFG India Credit Company(以下、SMICC社)の100%子会社化完了を発表した。三井住友は2021年にSMICC社(当時の社名はFullerton India)の株式の74.9%を取得し、2023年に現社名に社名変更、そして昨年は100%子会社化と、着実に当初構想通りの歩みを進めている。
出所:ニュースリリース「インド・SMFG India Credit Company に対する追加出資(100%子会社化)完了について」出所2:ニュースリリース資料
三井住友よりいち早くアジア投資を開始した三菱UFJとの比較でいうと、三菱UFJは2023年4月にインドでデジタル金融サービスを提供するノンバンク事業者の DMI Finance Private Limited(以下 DMI Finance 社)へ19,135 百万インドルピー(約 317 億円)の出資、翌2024年8月に27,988百万インドルピー(約490億円)の追加出資を発表している。出資比率は明らかではないが、DMI Finance 社の発表によると三菱UFJは2番目に大きい株主とのことでマイナー出資に留まっている様子であり、インド市場においては三井住友が先行していると考えられる。
業績は以下の左図の通り貸出残高が順調に伸びており、純利益も24年3月期は121億円と2期連続100億円を超過している。インドの大手同業者との比較ではまだ規模が小さいものの、現在の成長ペースが続けば差が縮まる可能性があり、今後に期待したい。
③ 米国においてデジタルバンクのチャレンジ開始
三井住友は2024年5月に、米国「Jenius Bank」における貯蓄性預金残高 が10 億米ドルに到達したことを発表した。「Jenius Bank」は三井住友が2023年に米国に設立した個人向けのデジタルバンクである。米国のリテール事業としては三菱UFJが2022年にMUFGユニオンバンクのリテール部門を売却しており、邦銀が米国でリテール事業を展開することの難しさを感じていたが、新たに同事業にチャレンジしたのが三井住友である。
出所:ニュースリリース「米国「Jenius Bank」における貯蓄性預金残高 10 億米ドル到達について」
ニュースリリースによると、「Jenius Bank」は米国でパーソナルローンと貯蓄性預金に絞ってサービス提供しているが、立ち上げから 1 年足らずで預金残高は 10 億米ドル、ローン残高は 7 億米ドルを超過し、安定的な立ち上げを実現したとのこと。
「Jenius Bank」の特色をホームページで確認してみたが、預金レートが米国の平均の10倍と謳っており、店舗を持たない低コストを生かした高金利の預金レート設定にあると考えられる。海外預金だけで2,960億米ドル(2024年12月時点)を預かるSMBCグループの中で、「Jenius Bank」の10億米ドルという預金残高はまだ少額であるが、ニュースリリースでは「SMBC グループは、本事業により、規模・成長性を有する米国リテールバンク市場において、今後も持続的かつ安定的な成長を目指す」としており、三井住友には米国でリテール事業を運営する唯一の邦銀として粘り強く事業拡大に取り組み、存在感を発揮することは期待したい。
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